カタユウレイボヤを用いて動物の血液細胞の進化過程を探る

「カタユウレイボヤを用いて動物の血液細胞の進化過程を探る」

長畑 洋佑(京都大学 医生物学研究所 再生免疫学分野)

 ヒトの血液には、赤血球や血小板、リンパ球、貪食細胞などの様々な系列の細胞が存在しており、この様々な系列の血液細胞は貪食細胞を起源として出現したと考えられています。しかし、これは、多くの動物が貪食細胞を有していることからの推測であり、遺伝学的な証拠は乏しい状況でした。そこで、今回、いろいろな生物種の様々な細胞の遺伝子発現を比較し、血液細胞の進化の痕跡を辿ることとしました(Nagahata et al, Blood. 2022;140:2611-2625)。

 本研究では、マウス、ホヤ(カタユウレイボヤ)、カイメン、カプサスポラ(真核単細胞生物)を研究対象としました。まず、これら4種の遺伝子を比較したところ、3237個の相同遺伝子が同定されました。これら3237個の遺伝子発現プロファイルを各生物種・各細胞系列で比較したところ、マウス、ホヤ、カイメンの貪食細胞は互いに類似しており、さらにカプサスポラとの類似性も示されました。マウスの貪食細胞とカプサスポラとの類似性を規定している遺伝子を探るため、両者に高発現している遺伝子を調べると、転写因子では唯一CEBPαが同定されました。CEBPαはマウスの貪食細胞の分化に必要な転写因子として知られています。ホヤの血液を採集して、貪食細胞とそれ以外の細胞系列での遺伝子発現も比較したところ、貪食細胞でCEBPαが高発現していることが明らかとなりました。さらに、カプサスポラ、カイメン、ホヤのCEBPαを、マウスの非貪食細胞系列の前駆細胞に発現させると、貪食細胞へと系列転換しました。このことから、貪食細胞を規定するというCEBPαの機能が単細胞生物からマウスまで保存されてきたことが示されました。

 以上より、貪食細胞が血液細胞の起源であることが明らかとなっただけでなく、その誕生の過程も明らかとなりました。すなわち、動物の祖先が多細胞生物となった際に、CEBPαを発現することにより単細胞生物時代の形質を濃く引き継いだ細胞が体腔中に現れ、それが血液細胞の起源となったと考えられます。

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