「バイオリソースを活かす1細胞トランスクリプトーム技術」
二階堂 愛(東京医科歯科大学/理化学研究所)
多細胞生物で起きる生命現象を理解するには、細胞型・状態ごとにその機能や成り立ちを解析し、それらの相互作用を調べる必要があります。ところが細胞型・状態は事前知識なしに取り出すことが困難です。1細胞トランスクリプトーム解析は臓器や組織のなかにある細胞の種類や状態を事前に特定することなく、全遺伝子規模で遺伝子発現データを取得し、データ駆動的に細胞種類や機能を同定するアプローチです。
1細胞RNAシーケンス法は数千から数万の1細胞トランスクリプトームを一度に計測することができます。しかし、このような高出力型1細胞RNAシーケンス法は、RNAの一部の配列しか決定しないため、RNAの全長構造やその変化を捉えられません。遺伝子アノテーションが不足している生物では特に3’末端の配列が決定されていないことも多くあります。そのためシーケンスリードの遺伝子データベースへのマッピングが不十分で正しい遺伝子発現量を見積もることができない場合があります。また既存の1細胞RNA-seq法Poly-A配列を持たない機能性RNAを原理的に捉えることができません。
そこで、これらの問題を完全に克服した世界初の1細胞完全長Total RNA-seq法RamDA-seqを開発しました(Hayashi T. et. al. Nature Comm, 2018; Nature Digest, 2018)。この手法で得られたデータから細胞特異的に発現するゲノム領域を特定する手法 (Matsumoto H. NARGAB, 2020)やその可視化法Millefy (Ozaki H. BMC Genomics, 2020)も開発しました。本講演では1細胞RNA-seq法の基礎を紹介した後、RamDA-seq法の利点とバイオリソースへの応用について議論したいと思います。