「円口類ヤツメウナギから紐解く、脊椎動物の形態進化」
日下部 りえ(関西大学/理化学研究所)
ヤツメウナギは原始的な形質をとどめる脊椎動物で、顎や対鰭を持たない円口類に属します。私たちの研究では、日本産カワヤツメLethenteron camtschaticumの胚を用いて、筋肉、脳・神経系、顎の構造などの発生学的・進化学的なメカニズムを解明することを目指しています。
北日本では、カワヤツメは食用に捕獲され、家庭での郷土料理に使われてきた歴史があります。しかし過去25年ほどの間、個体数が激減し全く獲れない年もあるほどの不漁が続いています。そのため一般に流通することはほとんどなく、絶滅危惧I類に指定されています。
脊椎動物のうち、顎を持たない(無顎類)はほとんどが化石種であるなか、世界各地に生息し、受精卵と胚が入手可能なヤツメウナギは、進化生物学者・発生生物学者たちの大きな注目を集めてきました。ゲノム解読もなされ、遺伝子レベルでも興味深い知見が蓄積しつつあります。一方、日本では近年の不漁により、毎年の繁殖シーズンに成熟個体を得るのが困難な状況です。川と海を行き来するライフサイクルに従い、成熟には年数がかかる上、一生に一度しか繁殖しません。私たちの研究では生息地の漁業者の協力を得て、実験室で成熟個体を一時的に飼育し、人工授精を行って胚を得ていますが、その回数は年にたった数回です。
そのような困難を克服して行ってきた研究からは、脊椎動物の祖先に備わり、現在のヤツメウナギ胚に刻まれた、「形作りのルール」がみえます。分子生物学的手法の応用例など、最近の状況についても紹介したいと思います。