第42回日本分子生物学会年会

ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)公開シンポジウム
―NBRPが支える生命科学研究最前線―

日時:2019年12月5日(木)15:45-19:00 (開場 15:00-)
場所:マリンメッセ福岡 3F サブアリーナ
(参加費無料・申し込み不要/一般の方も歓迎*)
*14:30から開演まで、会場1Fで行われています実物つきパネル展示「バイオリソース勢ぞろい」の見学にも参加できます(一般参加受付(マリンメッセ福岡エントランスロビー)で参加証をお配りします)。

主催:ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)広報室
共催:国立研究開発法人日本医療開発機構(AMED)
後援:第42回日本分子生物学会年会

 ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)は、わが国が戦略的に整備することが重要なバイオリソースについて、体系的に収集、保存、提供等を行うための体制を整備することを目的に2002年度にスタートしました。これまでの過去17年間におよぶ活動により、動植物・微生物等のバイオリソースとそれらに関する情報提供の事業拠点が整備され、世界的にも類を見ない多様かつ体系的なバイオリソース整備プロジェクトとして着実に成長してまいりました。
 今回、バイオリソースのさらなる利活用の促進に向け、第42回日本分子生物学会年会組織委員会のご協力のもと、公開シンポジウムを開催する運びとなりました。このシンポジウムでは、いくつかのバイオリソースについて、本事業の紹介とNBRPリソースを用いて顕著な成果を挙げられたユーザーの研究成果を紹介していただき、多くの方々にバイオリソースの重要性についてご理解を深めていただく契機になればと考えております。また、本プロジェクトをより良いものにしていくためにも、 多くの皆様方からNBRPに対する幅広い見地からのご意見・ご助言を賜われればと願っております。

プログラムおよび講演要旨 PDF版はこちら 日本語 / English
15:45-15:55  開会   主催者挨拶 小原 雄治(NBRPプログラムスーパーバイザー 情報・システム研究機構)
 来賓挨拶  小野寺 多映子(文部科学省 研究振興局ライフサイエンス課 生命科学専門官)
第1部(15:55-17:25) 座長:林 哲也(NBRPプログラムオフィサー 九州大学 大学院医学研究院)
15:55-16:25 NBRPリソース:ニホンザル
『実験動物としてのニホンザル』
  中村 克樹(京都大学 霊長類研究所)
 ニホンザルは、侵襲的な実験の可能な実験動物の中ではもっともヒトに近縁である。非常に発達した脳を持っていて、おとなしく手先が器用でもあるため、日本では脳科学研究に長年用いられ、多くの成果が出されてきた。近年でもニホンザルを用いた脳研究から脳卒中のリハビリテーションに役立つ成果が発表された。また、ヒトの救命救急に用いる装置の開発研究にもニホンザルが役立ち、 臨床場面で活用されるに至った例もある。さらに近年では、アジア大陸のマカクザルとは異なり、さまざまなウイルスに対して特徴的な反応を示すことも知られ、感染症研究におけるヒトのモデル動物として注目されている。ニホンザルは日本固有種でもあり、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS:Access and Benefit-Sharing)」問題を考慮しても利用しやすい利点がある。 今後はさらに遺伝子編集等の技術も活用した新たな研究が展開できると期待できる。
『ニホンザルを用いた社会脳研究』
  磯田 昌岐(自然科学研究機構 生理学研究所)
 社会的な認知機能、あるいは社会的なこころの神経基盤の解明を目指す、いわゆる社会脳研究への関心が高まっている。ヒトを対象とした脳イメージング技術の改良により、適応的な社会機能を司る脳領域や神経回路を非侵襲的に同定することが可能となったが、さらに最近ではマカクザルをモデル動物として、複雑な社会的意思決定を必要とする行動タスクを実験室環境下で開発するとともに、 それを遂行する際の脳活動を電気生理学的手法を用いて高い時空間解像度で計測し、社会的脳機能の神経基盤をシステムレベルで明らかにすることが可能となりつつある。本講演ではそうした研究の一例として我々がニホンザルを用いておこなった、自己と他者の報酬情報が脳内でどのように処理・統合されるのかを明らかにした研究の成果を紹介する。具体的には、対面2頭のサルを用いた新規の行動タスクを開発して、 社会的情報処理ネットワークの中核領域である内側前頭前野の神経細胞が自己または他者の報酬情報を選択的にコーディングするのに対して、報酬情報処理ネットワークの中核領域であるドーパミン作動性中脳核の神経細胞が他者の報酬情報を踏まえて自己報酬の主観的価値をコーディングすることを見出した。さらに2領域の神経活動を同時に計測することで、両者をめぐる情報流が主に内側前頭前野から中脳核に向かうことを明らかにした。 これらの結果から、大脳皮質と皮質下を結ぶ神経回路が社会的場面での報酬のモニターや価値評価において重要な役割を果たすことが示唆される。 マカクザルをモデル動物とした社会脳研究をさらに推進することにより、ヒトを含む霊長類で特に発達したと言われる社会的脳機能のメカニズムを神経細胞から神経回路までの異なるレベルで解明できるのではないかと期待される。

主要論文:
・Noritake A, Ninomiya T, Isoda M (2018) Social reward monitoring and valuation in the macaque brain”. Nat Neurosci 21: 1452-1462.
・Isoda M, Noritake A, Ninomiya T (2018) Development of social systems neuroscience using macaques. Proc Jpn Acad Ser B Phys and Biol Sci 94: 305-323.
16:25-16:55 NBRPリソース:ネッタイツメガエル
『ネッタイツメガエル近交系4系統のゲノム解読と系統間の遺伝的変異』
  井川 武(広島大学 両生類研究センター)
 ネッタイツメガエルは発生・再生研究を中心とした様々な生物学的研究において有用な両生類モデル生物である。NBRPネッタイツメガエル中核機関である広島大学両生類研究センターでは、第1期から継続して近交系の作出に取り組んでおり、継代飼育によって健全な生活力を有する近交系4系統(Nigerian A、Nigerian H、Nigerian BH、Ivory Coast)の作出に成功している。また、これまで不明確であった系統間の遺伝的関係についても明らかにしてきた。 近年、ゲノム編集などの技術革新などによって各系統個別のゲノム情報の重要性が高まってきたため、演者らは昨年度のNBRPゲノム情報等整備プログラムによる支援を受けて、超並列シーケンサーによる4系統の全ゲノム配列の配列解読を行なった。その結果、各系統に固有の塩基多型および構造多型が明らかになった。同一種内の異なる近交系で、塩基多型の比較情報を備えたリソースは貴重であり、 ゲノムの個人差と疾患易罹患性との関係等のモデル研究への活用が期待される。本発表では、4系統の各系統のゲノム配列における差異と遺伝的関係について紹介する。

主要論文:
・Igawa T, Watanabe A, Suzuki A, Kashiwagi A, Kashiwagi K, Noble A, Guille M, Simpson DE, Horb ME, Fujii T, and Sumida M (2015) Inbreeding ratio and genetic relationships among strains of the Western clawed frog, Xenopus tropicalis. PLoS One 10(7): e0133963.
・Kashiwagi K, Kashiwagi A, Kurabayashi A, Hanada H, Nakajima K, Okada M, Takeshi M, Yaoita Y (2010) Xenopus tropicalis: An Ideal Experimental Animal in Amphibia. Exp Anim 59(4): 395–405.
『ネッタイツメガエルが教えてくれる3次元構造の再生原理』
  越智 陽城(山形大学 医学部メディカルサイエンス推進研究所)
 カエルはヒトと比べると高い再生能を持ち、大きな損傷を受けても、機能的な組織を再構築することができる。ゆえに個体内での3次元組織再構築のメカニズムを理解する研究にはとても有用なシステムといえる。一方で、マウスやサカナあるいは細胞など、カエル以外のシステムを使って研究を進めてきた者にとって、カエルは最前線の研究に耐えうるシステムであるのか疑問をもつかもしれない。演者はゼブラフィッシュやニワトリ、培養細胞を使った研究から、カエルに手を広げてきた。 一昔前なら、研究室にノウハウがない動物を取り入れることは容易ではなかったが、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)から生体・非生体リソースなど様々なツールが提供される今は、小さな研究室でも取り扱い経験のない動物を使って新しい研究を迅速に展開できる時代となっている。
 最近、演者らはNBRPから提供されたネッタイツメガエルの様々なリソースを使って、腎尿細管の再生時に遺伝子発現をオンにする再生シグナル応答エンハンサー (Regeneration Signal-Response Enhancer: RSRE)を発見した (Suzuki N., et al., eLife, 2019)。RSREは、ヒトやマウスなどのほ乳類のゲノムにも保存されている。その活性化メカニズムを調べたところ、カエルにおいては転写因子Arid3aがH3K9me3の脱メチル化酵素Kdm4を呼び込むことでエンハンサーの活性を制御することがわかった。また、マウスのゲノムに保存されているRSREの相同領域にも再生シグナルに応答する活性があるのか調べたところ、マウスRSRE相同領域は、 カエルの再生中の腎管でエンハンサー活性を示すことがわかった。本講演では、カエルの腎再生メカニズムがヒトにも潜在的に保存されていること、その発見に至る過程でNBRPから受けた支援について紹介したい。

主要論文:
・Suzuki N, Hirano K, Ogino H, Ochi H (2019) Arid3a Regulates Nephric Tubule Regeneration via Evolutionarily Conserved Regeneration Signal-Response Enhancers. eLife pii: e43186.
・Suzuki, S, Hirano, K, Ogino, H, Ochi H (2015) Identification of distal enhancers for Six2 expression in pronephros. Int J of Dev Biol 59(4-6): 241-6.
・Ochi H, Tamai T, Nagano H, Kawaguchi A, Sudou N, Ogino H (2012) Evolution of a tissue-specific silencer underlies divergence in the expression of Pax2 and Pax8. Nat Commun 3:848.
16:55-17:25 NBRPリソース:酵母
『世界の酵母研究に貢献するナショナルバイオリソースプロジェクト酵母』
  杉山 峰崇(大阪大学 大学院工学研究科)
 酵母は真核細胞の究極のモデルとして、さまざまな生命現象の解明やバイオテクノロジーに大きく貢献してきた。NBRP酵母では、特に、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeと出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの2種の酵母を中心に、菌株とDNAなどのリソースを収集、保存、提供するとともに、効率的な提供をサポートするデータベースやオーダーシステムを構築している。 リソースの保有状況としては、分裂酵母は、菌株約23,000株、DNAクローン約10万を収集しており、出芽酵母は、菌株約27,000株、DNAクローン約6,200を有している。リソースの提供は、日本だけでなく海外が半数弱を占め、20ヶ国以上の研究者に年間約4,000件を提供している。NBRP酵母から提供されたリソースを使って発表された学術論文はこれまで約700報になる。Nature、Cell、Scienceおよびその姉妹紙も多く含まれるなど、 そのほとんどがハイレベルな国際誌であり、酵母研究へ非常に貢献している。本シンポジウムでは、NBRP酵母の事業内容とサービスについて紹介したい。

主要論文:
・中村 太郎, 北村 憲司, 杉山 峰崇 (2017) ナショナルバイオリソースプロジェクト酵母. 化学と生物 55(5): 326-332.
・Parua PK, Booth GT, Sansó M, Benjamin B, Tanny JC, Lis JT, Fisher RP (2018) A Cdk9-PP1 switch regulates the elongation-termination transition of RNA polymerase II. Nature 558 (7710): 460-464.
・Memisoglu G, Eapen VV, Yang Y, Klionsky DJ, Haber JE (2019) PP2C phosphatases promote autophagy by dephosphorylation of the Atg1 complex. PNAS 116(5): 1613-1620.
『出芽酵母および分裂酵母の生細胞内におけるATP動態高精度観測系の確立』
  高稲 正勝(群馬大学 未来先端研究機構/生体調節研究所)
 私たちの体を構成する細胞は生存や増殖のために莫大な化学エネルギーを消費し続けている。アデノシン三リン酸 (adenosine triphosphate, ATP) は細胞内の主要なエネルギー通貨であり、筋肉の収縮やタンパク質分解を初めとした生体内の様々な反応に直接エネルギーを供給する。さらにATPは細胞のエネルギー源として働くだけでなく、酵素活性制御、イオンチャネル制御、細胞骨格再編成および遺伝子発現制御に関与するシグナル分子としても機能する。 したがって細胞内ATP濃度の制御を理解することは細胞のエネルギー代謝や恒常性維持機構を理解する上で重大な意義がある。
 酵母は分子遺伝学的操作が容易な、非常に洗練された真核細胞モデルである。同時に酵母は古くから醸造をはじめとした、様々な有用物質の発酵生産に利用されてきた。そのため個々の代謝経路が詳細に解析されており、また豊富なメタボロームデータが存在する。したがって酵母は細胞内代謝を理解するための最適なモデルシステムといえよう。しかしながら従来の生化学的解析では酵母細胞集団の平均のATP濃度しか測定できないため、一細胞レベルで個々の細胞内のATP濃度を計測することは技術的に困難であり、その詳細な動態についても不明であった。
 近年、この技術的限界を克服するべく、数種類のATPバイオセンサーが開発され、様々な細胞において細胞内ATPが可視化・観測されつつある。私たちは最近開発された、増殖の速い微生物での使用に最適なATPバイオセンサーQUEENを出芽および分裂酵母に導入することで個々の酵母細胞内でのATP濃度を可視化して、その動態を高精度で観測する系を確立した。その結果、細胞周期や栄養源に依存せず酵母細胞内のATP濃度を一定に保つ仕組み(ATP恒常性)があることがわかったので本発表で紹介したい。なお作成したQUEEN発現酵母株やプラスミドは、すでに国内外の多くの研究者からのリクエストがあり、NBRPを通じて分譲されている。今後は私たちが開発したATP観測系がスタンダードとなり、酵母の代謝研究において広く貢献することが期待される。

主要論文:
・Takaine M, Ueno M, Kitamura K, Imamura H, Yoshida S (2019) Reliable imaging of ATP in living budding and fission yeast. J Cell Sci 132 (8).
・Ito H, Sugawara T, Shinkai S, Mizukawa S, Kondo A, Senda H, Sawai K, Ito K, Suzuki S, Takaine M, Yoshida S, Imamura H, Kitamura K, Namba T, Tate SI, Ueno M (2019) Spindle pole body movement is affected by glucose and ammonium chloride in fission yeast. Biochem Biophys Res Commun 511: 820-825.
17:25-17:35休憩
第2部(17:35-18:55) 座長:田畑 哲之(NBRPプログラムオフィサー かずさDNA研究所)
17:35-18:05 NBRPリソース:アサガオ
『アサガオリソースの整備と新しい活用法』
  星野 敦(自然科学研究機構 基礎生物学研究所)
 NBRPアサガオは、アサガオ(Ipomoea nil)のバイオリソースを扱う世界唯一の機関である。約3千系統と16万のDNAクローンを保存して国内外に提供している。また、系統とゲノム情報の整備や、レーザー光による発芽処理などにより、リソースの付加価値の向上もめざしている。  アサガオは薬草として渡来し、日本独自の園芸植物として発展した。江戸後期から選抜されてきたトランスポゾンによる変異が、現在の多種多様な系統の基礎にある。とくに珍奇なかたちを愛でる変化朝顔は、その多くが不稔で手間暇をかけて維持されてきており、我が国にとってかけがえのない歴史的・文化的リソースでもある。
 アサガオの研究は100年以上の歴史があり、古典遺伝学と光周性花成の生理学についての知見が豊富である。全ゲノム配列も解読され、系統とゲノムの情報が関連づけられたデータベースの整備も進んでいる。また、形質転換、ゲノム編集、トランスポゾンを利用した遺伝子同定の手法も確立している。アサガオに特徴的な形質を活かした研究が進むなか、「早朝に咲く」、「よじ登るなど」など未解明・未開拓の形質も多く、さらなる研究の発展が期待される。

主要論文:
・Hoshino A, Jayakumar V, Nitasaka E, Toyoda A, Noguchi H, Itoh T, Shin IT, Minakuchi Y, Koda Y, Nagano AJ, Yasugi M, Honjo MN, Kudoh H, Seki M, Kamiya A, Shiraki T, Carninci P, Asamizu E, Nishide H, Tanaka S, Park K.I, Morita Y, Yokoyama K, Uchiyama I, Tanaka Y, Tabata S, Shinozaki K, Hayashizaki Y, Kohara, Suzuki Y, Sugano S, Fujiyama A, Iida S, Sakakibara Y (2016) Genome sequence and analysis of the Japanese morning glory Ipomoea nil . Nat. Commun 7: 13295.
・Watanabe K, Kobayashi A, Endo M, Sage-Ono K, Toki S, Ono M (2017) CRISPR/Cas9-mediated mutagenesis of the dihydroflavonol-4-reductase-B (DFR-B) locus in the Japanese morning glory Ipomoea (Pharbitis) nil. Sci. Rep 7: 10028.
『アサガオから花の寿命を調節する遺伝子を発見』
  渋谷 健市(農業・食品産業技術総合研究機構)
 花の寿命は植物種ごとにおおよそ決まっており、受粉した後または花が開いてから一定の時間がたつと、自ら進んで花弁を老化させる仕組みをもっていると考えられている。一方、観賞用の花では、消費者から日持ちの良さが強く求められており、日持ち性の向上は園芸分野における重要課題となっている。我々は、アサガオを用いて、花弁の老化を制御する遺伝子の探索を行った。アサガオは通常早朝に開花し、半日ほどでしおれてしまう寿命の短い一日花である。アサガオでは花弁の老化時にオートファジーやプログラム細胞死に関連する現象が観察される。また、形質転換系が確立しており、 花も比較的大きく、バイオリソースも充実していることから、花の老化機構の研究に適した植物である。まず、アサガオのEST情報をもとにDNAマイクロアレイを作製し、花弁の老化時に発現量が増加する遺伝子を選抜した。 次に、選抜した遺伝子の発現をRNAiにより抑制した形質転換体を作出し、花の老化特性を解析した。その結果、EPHEMERAL1 (EPH1)と名付けたNAC転写因子遺伝子の発現抑制体では、 花の寿命が約2倍に延長し、翌朝まで咲き続けた。ephemeralは英語で「はかない」を意味する。EPH1発現抑制体では、プログラム細胞死関連遺伝子の発現が抑制され、花弁における細胞死の進行が遅延していた。 これらの結果から、EPH1が花弁の老化を制御する鍵因子であることが明らかになった。さらに、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集によりEPH1をノックアウトした結果、花弁の老化が顕著に遅延した。 このことから、花弁の老化制御におけるEPH1の役割が確認された。また、アサガオでは、CRISPR/Cas9システムによる変異の導入効率が他の植物種に比べて高いことも明らかになった。 現在は、近年整備されたアサガオの全ゲノム情報を活用し、EPH1による花弁老化制御ネットワークの解明を進めている。

主要論文:
・Shibuya K, Watanabe K, Ono M (2018) CRISPR/Cas9-mediated mutagenesis of the EPHEMERAL1 locus that regulates petal senescence in Japanese morning glory. Plant physiol and biochem 131: 53-57.
・Shibuya K, Shimizu K, Niki T, Ichimura K (2014) Identification of a NAC transcription factor, EPHEMERAL1, that controls petal senescence in Japanese morning glory. Plant J 79: 1044-1051.
18:05-18:35 NBRPリソース:情報センター
『バイオリソース情報で研究を効率よく進める方法』
  川本 祥子(国立遺伝学研究所 生物遺伝資源センター)
 ナショナルバイオリソースプロジェクトは、ライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソースについて収集・保存・提供を行うプロジェクトである。遺伝研NBRP情報センターは、リソース情報の中核機関として各リソースのデータベース構築を支援するとともに、リソースの注文サイトなど利用者サービスを担当してきた。 現在、NBRP全体で約650万件のリソースを保有しているが、リソースを探す入り口となっているのがNBRPのWebサイトである。各機関が配布するリソースは、野生種、近縁種、近交系、トランスジェニックやノックアウト、細胞、DNAまで非常に多岐に渡る。研究を効率よく進めるために、必要なリソースをどのように探せばよいのか、NBRPのデータベースを使った検索や注文方法について解説するとともに、 ゲノムや文献など関連する最新情報について紹介する。

情報センターサービスのURL:
 NBRP情報公開サイト: http://www.nbrp.jp
 リソース総合検索(BRW): http://resourcedb.nbrp.jp
 成果論文データベース(RRC): https://rrc.nbrp.jp
『情報と一体化した高付加価値リソース創出に向けて』
  桝屋 啓志(理化学研究所 バイオリソース研究センター)
 理化学研究所バイオリソース研究センターでは、2018年より統合情報開発室を発足させ、センターの中核であるバイオリソース整備事業の一つの室として、健康、食料、環境・資源等の重要な研究領域でバイオリソース情報を国際的に共有、活用する仕組みを整備することを目指して、情報基盤整備を行っている。
 本開発室は事業の柱となる3つのプログラムとして、1)メタデータ統合・国際標準化・横断検索等の研究開発、2)ホームページ公開コンテンツの充実、3)大規模データ解析技術及びデータ可視化技術開発に取り組んでいる。1)のメタデータ統合は、データ駆動生命科学の到来を念頭に、Resource Description Framework (RDF)などの情報統合技術を駆使して、健康、食料、環境をはじめとする生命科学の重要領域におけるデータと、研究の再現性の要であるバイオリソース情報を統合し、 生命科学の研究基盤を継続的に提供することを目指す。そのための国際標準化、技術開発にも積極的に関わっていくとともに、医科学や農業等、利活用につながる情報とバイオリソースの連結に取り組んでいく。2)のホームページ公開は、リソース情報発信の要として、「人が見る、読む、検索する」ためのコンテンツ作成を行っていく。3)の大規模データ解析は、バイオリソースに関する種々のビッグデータを解析し、研究への新たな活用法等を開発・提案する。 これらの3つのプログラムを連動させ、NBRP情報センターをはじめとする国内外の関連事業と連携することで、情報と一体化した高付加価値リソース創出に貢献することを目指している。
 「情報なくしてリソースの価値なし」と表されるように、バイオリソースの利用において、情報は極めて重要な役割を果たしており、その役割は今後ますます大きくなっていくと考えられる。本発表では統合情報開発室で取り組んでいる事業と研究開発について概説する。

主要論文:
・Kobayashi N, Kume S, Lenz K, Masuya H (2018) RIKEN MetaDatabase: A Database Platform for Health Care and Life Sciences as a Microcosm of Linked Open Data Cloud. Int J Semantic Web Inf Syst 14(1): 140-164.
・Tanaka N, Masuya H (2018) Mouse phenome as biological resource.Impact 12: 93-95(3).
・Suzuki K, Nakaoka S, Fukuda S, Masuya H (2019) Energy landscape analysis of ecological communities elucidates the phase space of community assembly dynamics. bioRxiv DOI:https://doi.org/10.1101/709956
18:35-18:55 NBRPリソース:ABS対応
『海外から動物・植物・微生物を入手するときにはABS対応が必用です!』
  鈴木 睦昭(国立遺伝学研究所 産学連携・知的財産室)
 生物多様性条約における海外遺伝資源の取り扱いに関して、我が国の名古屋議定書締約国入り、提供国の関連法令の整備などにより、海外からの遺伝資源の取得の機会およびその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(Access and Benefit-Sharing: ABS)についての対応が必須となっている。 我々は、我が国の学術機関と学術分野の研究者を対象に、円滑な遺伝資源の取得や対応体制の構築を目的として、 NBRP情報整備プログラムのもと、ABS対応課題として活動を行っている。
 具体的には、遺伝資源取得の支援として、分担機関(九州大学、首都大学東京、筑波大学)と共に、提供国情報の取得、遺伝資源取得支援や契約アドバイスを行っている。また、体制構築支援として、各大学でのABS対応窓口設置・運用を支援している。さらに、NBRPリソース機関に関して、啓発活動個別相談を行い、リソース機関の運用に際し、ABS対応についての強化に貢献している。また、生物多様性条約締約国会議(COP)などに参加しデジタル配列情報などの対応支援を行っている。本活動により、学術分野においてABSに関するトラブルの防止、円滑な遺伝資源の取得に貢献を行うため、今後も引き続き実施を行う。

主要論文:
・鈴木睦昭 (2018) 海外遺伝資源の大学における利用状況と、名古屋議定書国内措置開始 に関しての議題. 環境情報科学 47: 35.
・鈴木睦昭 (2018) 我が国の国内措置の概要と学術分野の必要な取り組みについて.海外 遺伝資源利用研究の課題および円滑な推進に必要な取り組みについて. 学術の動向 23(9): 960-964.
・鈴木睦昭 (2014)「研究成果有体物と遺伝資源に関する円滑な流通に向けて―課題分析と 今後の課題解決の展望―」.知的財産イノベーション研究の諸相: 114- 125 (コンテンツシティー出版).
18:55-19:00  閉会の辞  小幡 裕一(NBRPプログラムオフィサー 理化学研究所 バイオリソース研究センター)
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    NBRP広報室
    nbrp-pr(at)nig.ac.jp