第70回日本細胞生物学会 第51回日本発生生物学会 合同大会
NBRPワークショップ
―バイオリソースが拓く発生学・細胞生物学―
2018年6月5日(火)16:00-18:00
タワーホール船掘 Room E
座長:城石 俊彦(国立遺伝学研究所 副所長)
第70回日本細胞生物学会 第51回日本発生生物学会 合同大会
NBRPワークショップ
―バイオリソースが拓く発生学・細胞生物学―
2018年6月5日(火)16:00-18:00
タワーホール船掘 Room E
座長:城石 俊彦(国立遺伝学研究所 副所長)
16:00-16:30 | 配偶子由来DNA メチル化を維持した高品質なES 細胞の樹立山田泰広・東京大学・医科学研究所・システム疾患モデルセンター |
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MEK阻害剤およびGSK3阻害剤を含む培地 (2i培地)により、効率良くマウスES細胞を樹立・維持することが可能となり、より質の高い多能性幹細胞の培養法として受け入れられてきた。本研究では2i培地で樹立したES細胞のエピゲノム安定性について検討した。特にゲノムインプリントと呼ばれる配偶子由来DNAメチル化状態を、日本原産のMSM/MsマウスおよびNIGマウスゲノムデータベースを用いて解析した。興味深いことに2i培地で樹立したES細胞ではインプリントが消失しており、個体発生能が低下していることが分かった。さらに、インプリントの記憶を保ち、高い個体発生能を有したマウスES細胞の効率良い樹立方法を見出した。本発表では、多能性幹細胞におけるエピゲノムの安定性と個体発生能との関連について議論したい。 | |
16:30-17:00 | 生殖幹細胞の増殖を制御する器官間シグナル: ショウジョウバエを用いた研究から丹羽 隆介 筑波大学・生命環境系・動物発生・生理学分野 |
幹細胞は、多分化能を維持したまま自己複製的な分裂を行う一方で、分化した娘細胞を継続的に供給する。そして、幹細胞が個体において安定的に維持されることは、生体の恒常性や組織の維持にとって必須である。これまでの研究から、幹細胞の数が個体の生理状態や個体を取り巻く外環境状態によって影響される事例が知られている。これらの個体内外の状態は神経系あるいは内分泌系を介して幹細胞に伝えられることが容易に想像されるが、その実態を分子・細胞レベルで解明した研究はいまだ少ない。我々は、キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterで整備されている豊富な遺伝学的リソースを活用し、メス生殖幹細胞をモデル系として上述の問題に取り組んでいる。本講演では、交尾刺激依存的なメス生殖幹細胞の増殖に、神経系から卵巣、あるいは腸から生殖巣へと至る器官間シグナルが重要な機能を果たすことを紹介する。 | |
17:00-17:30 | ゼブラフィッシュ可視化解析により見えてきた、発生ロバストネスを支える細胞競合を介したシグナル補正機構 石谷 太 群馬大学・生体調節研究所・病態制御部門・個体統御システム分野 |
パターン形成は、動物の胚発生や組織再生の根幹をなすプロセスである。これまでの遺伝学的研究・生化学的研究によりWntシグナルなどのモルフォジェンシグナルの活性勾配が組織パターンを生み出すことが明らかにされている。モルフォジェンシグナル活性勾配は、組織局所からのモルフォジェン分子の分泌拡散とその濃度に応じた細胞内シグナルの活性化という化学反応連鎖により形成される。しかしながら、発生・再生過程の組織ではモルフォジェンシグナルによるパターン形成と並行して細胞の活発な増殖・運動が起きており、それらはシグナル活性勾配の形成を不安定にすると推測される。では、モルフォジェンシグナルはどのようにしてこのような撹乱を乗り越えて正確なパターン形成を成し遂げるのだろうか?本ワークショップでは、私たちがゼブラフィッシュを用いたin vivo可視化解析により最近発見した「細胞競合を介したモルフォジェンシグナル活性勾配補正機構」とその組織構築ロバストネスにおける役割についてお話しする。 | |
17:30-18:00 | 四肢動物における後肢の位置の多様性を生み出す発生メカニズムの解明 鈴木 孝幸 名古屋大学大学院・生命農学研究科・鳥類バイオサイエンス研究センター |
私たちヒトを含む四肢動物の後肢は骨盤を介して仙椎に接続しており、この位置関係は進化の過程で保存されている。この位置関係の保存性から、我々は体の前後軸に沿って仙椎の位置に必ず後肢を発生させる共通の発生メカニズムがあるのではないかと考えた。ニワトリ胚を用いた発生学的な解析により、TGF-betaスーパーファミリーの分泌因子であるGDF11が、将来の仙椎を形成する場所に発現し、隣接する後肢の前駆組織である側板中胚葉にも同時に作用することで、仙椎と後肢が同調して同じ位置に発生することが判明した。さらに、後肢の位置の異なる四肢動物種8種(カエル、スッポン、ヤモリ、マウス、ニワトリ、ウズラ、エミュー、シマヘビ)におけるGDF11の作用メカニズムを調べた結果、後肢の位置が頭から遠い種(エミューやシマヘビなど)ほど、Gdf11の発現開始タイミングが遅いことが明らかとなった。これらの結果は、四肢動物においてGdf11という1遺伝子の発現タイミングの違いによって後肢の位置の多様性が生み出されていることを示している(Matsubara et al. Nature Eco&Evol, 2017)。 |
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